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次の祝祭までには

10分後に、携帯電話が鳴った。はじめは、彼女の声だとはわからなかった。かよわく、動揺した声で、すすり泣いていた。「なぜ、あんなことした?」その声はわたしを打ちのめし、さっき必死で走っていたのは、やはり彼女だったのだとわかった。
「あんなことって何? スリランパさん、いったいどうしたの?」わたしは、声を張り上げた。
「ポリスに行ったんだね、わかってる」嗚咽しながら言った。「だから写真撮った、なぜ撮った?」
「ポリスだなんて、とんでもない」わたしは大声を出した。「あなたを喜ばせたくて、写真を撮ったんじゃないの!」
「なぜ?」今度は、彼女が大声を出した。「プレゼントは、何するため?」
「なぜって・・・昨日、冷蔵庫をきれにしてくれた・・・時間をかけて掃除してくれた」わたしは、もごもごしてしまった。たしかに、いきなりそんな言い訳は、場違いにも聞こえる。
「だから何?」。「あたし、いつも長い時間働いて、プレゼントはもらわない。いつもそう。今、急に上等なプレゼントと写真! ポリスに行くためだ! くたばれ! 呪ってやる!」ぺっと唾を吐いて、電話は切れた。
重い頭を抱えて、わたしは家に帰った。日が暮れて、うす暗い闇の中にたたずむ家。プリンスはソファに寝そべり、プーチンは初めてわたしに近よって、わたしの足に顔をこすりつけてきた。わたしは、自分の冷えた手で灰色の頭をなでてやろうとした。しかし、あの子はそのやわらかな毛に伸ばそうとした手をすり抜けて窓につきすすみ、ジャンプしてそのうちどこかに消えた。それ以来もう、姿を見せなくなった ―そして、あの掃除婦も同じだった。
註: 1ドルは約3シェケル
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